U-20 W杯中止について

開催国変更

2023年5月20日~6月11日にインドネシアで開催予定であったサッカーU-20W杯について、FIFA(国際サッカー連盟)から正式にPSSI(インドネシアサッカー協会)にインドネシアでの開催中止→開催国変更が通達された。

なぜこうなってしまったのか?

たくさんの憶測が飛び交う中、インドネシアサッカー界に長く携わってきた経験と知識を基に筆者なりに感じた事・思ったことを書いてみようと思う。

FIFA会長と会談

インドネシアのニュースで流れているバリ州知事や中部ジャワ州知事が発表したイスラエル代表団受け入れ拒否発言、政治的な問題、宗教の問題といった大方の見方はあるが、インドネシアのジョコ・ウィドド大統領がこの件につき公式声明を出し、28日の夜にPSSIのエリック・トヒル会長が全権委任大使としてジョコ・ウィドド大統領の親書を携え急遽カタールのドーハに飛び、翌29日、FIFAジャンニ・インファンティーノ会長と最終会談を行った。

最終的な判断を下したのはFIFAである。

というこの事実を初めにお伝えしておく。

筆者はサッカーを生業にする者としてサッカー目線でこの問題に触れていこうと思う。

カンジュルハンスタジアムの悲劇

先ず、昨年の悲劇に触れないわけにはいかないだろう。

2022年10月1日、インドネシア・東ジャワ州マラン(カンジュルハンスタジアム)にて、死者130人以上を出すという悲劇が起きてしまった。

この試合はインドネシアにおいてビック4(ペルシジャ、ペルシブ、アレマ、ペルセバヤ)と呼ばれるアレマFC(マラン) VS ペルセバヤ(スラバヤ)の東ジャワダービーで起きた。

ホームのアレマはピアラ・プレジデント(リーグ開催前のカップ戦)で優勝しており、リーグタイトル奪取を目標に幸先の良いスタートを切っていた。
しかし、リーグが始まるとアレマはカップ戦で見せていた好調がどこへ行ってしまったのかと思うほど調子が上がらず、チームの雰囲気はあまり良くない中で迎えた伝統の一戦・東ジャワダービー。
相手は同じ東ジャワ州をホームとするペルセバヤ・スラバヤ。絶対に負けられない相手をホームに迎え撃つ一戦に、インドネシア全土からアレマニアと呼ばれるアレマサポーターがスタジアム内外に押し寄せ、カンジュルハンスタジアムは超満員に。

そこで悲劇は起きた。

試合は2-3でホームのアレマが敗戦。これに怒ったアレマサポーターがピッチになだれ込み、それを阻止しようとする警察・セキュリテーとの間で起きてしまった悲惨な事件である。

ウィキペディア参照:https://ja.wikipedia.org/wiki/2022年カンジュルハン・スタジアムの悲劇

新会長就任で新時代へ

この事態を重く見たFIFAは特別班をインドネシアに送り、問題解決に乗り出した。

出典:AFP https://www.afpbb.com/articles/-/3429796

インドネシアのジョコ・ウィドド大統領とFIFAジャンニ・インファンティーノ会長が緊急会談を持つなど正常化へ向け、インドネシアサッカーをサポートすると正式表明した。その理由は、2023年5月に開催予定のU-20W杯・インドネシア大会が目前に迫っていたことが大きな要因であった。

もし、この国際大会で同じような悲劇が起こってしまったら?
世界中が注目するスポーツの祭典・ワールドカップで悲劇が繰り返されてはならないとFIFAは専門チームをインドネシアに派遣→常駐させ、インドネシアサッカー界を監視し続けていた。問題となったカンジュルハン スタジアムも取り壊し→改修工事に入った。

悲劇から約2ヶ月後にはインドネシアリーグは再開され、インドネシアのサッカーファンも落ち着きを見せ始めていた。

年が明け、2月にはPSSI(インドネシアサッカー協会)の会長にはエリック・トヒル氏(元インテル会長)が就任し、新時代を迎える。エリック会長は過去に所有していたインテル・ミラノ(イタリア・セリエA)だけでなく、元イングランド代表のウェイン・ルーニーが監督を務めるDCユナイテッド(アメリカ)のオーナーでもあり、サッカーへの造詣がとても深い。インドネシアのサッカーファンもエリック会長の手腕に期待していた。

エリック新会長を中心としたチームはインドネシアサッカー界の改革に乗り出すとともにFIFAと協力し、5月のU-20W杯に向けた準備を着々と進めていた。
開催に向け、スタジアム・練習場の改修工事、セキュリテー強化など最善を尽くしていた。熱狂的なサポーターの押し寄せそうな試合などは無観客試合としたり代替え地(中立地域どちらのホームでもないスタジアム)にて開催など出来る限りのことをしていた。

そのような中、今年1月にはカンジュルハン事件の初公判が行われた。
(参照:https://news.yahoo.co.jp/articles/c87ab554adca387e7b55e704be27c139f2f34df0

また3月には試合主催者が1年6ヶ月の禁固刑、警備責任者には1年の禁固刑が言い渡された。
(参照:https://www.afpbb.com/articles/-/3454884

この件について、インドネシアに常駐するFIFAの専門チームの目にはどう映っただろうか?スイス・チューリッヒにあるFIFA本部にどのような報告をしたのであろうか・・・

PSSI会長選のタイミング

筆者はもう一つの視点として、PSSI会長選のタイミングも難しい時期であったのではないかと考えてみた。時系列的に追ってみると

  • 2022年10月1日にカンジュルハンの悲劇
  • 2023年2月に新会長就任
  • 2023年5月末にU-20ワールドカップ(インドネシア開催予定→中止)

この短期間に

  • リーグ再開問題(12月)
  • カンジュルハン問題の初公判(1月)
  • PSSI会長選(2月)
  • U-20W杯アジア予選・ウズベキスタン(3月)
  • カンジュルハン問題判決(3月)
  • U-20W杯・抽選会(3月31日→中止)

エリック新会長の手腕に期待する関係者が多い中、一部の関係者の間では5月にU-20W杯を迎えるにあたり問題が山積みのこの状況下での会長選に疑問を抱く者もいた、との声もあったという。

FIFAの最終決定

州知事の発言が問題である。

政治や宗教の問題である。

このように唱える者も多いが、ジョコ・ウィドド大統領の親書を携え、最終調整の為にカタールのドーハに赴いたエリック・トヒル会長と会談し、それを踏まえた上でFIFAジャンニ・インファンテーノ会長及びFIFAの最終決定は開催国変更であった。

FIFAは最終的には安全性を第一に判断を下したのではないであろうか?

とても難しい問題ではあるが昨年の悲劇は絶対に繰り返されてはならない。熱狂的なインドネシアサポーター、インドネシア国民もこの開催国剥奪という事態を今一度、よく考えてみる必要もあるのではないだろうか?この悲しみを乗り越え、インドネシアサッカーの明るい未来の為に今できることをしようではないか。
微力ながらインドネシアサッカーの新しい未来に一石を投じたい。
インドネシアサッカーファンの期待を背負いエリック新会長は28日の代表戦視察後、スタジアムから直接空港へ向かった・・・

インドネシア代表戦にて

筆者は縁あって3月28日のインドネシア代表戦(対ブルンジ)をスタジアム(ジャワ島・パトリオットスタジアム)で生観戦する機会に恵まれた。

その試合にU-20インドネシア代表選手をスタジアムに呼び、目にうっすらと涙を浮かべながら代表選手達と抱き合うエリック新会長を見た時、もしかすると既にインドネシア開催は中止との連絡をFIFAから受けていたのではないかと・・・

それでも僅かながらの可能性でもエリック会長がスタジアムから空港に向かう姿を間近で見た時、熱狂的なインドネシアサポーターと一緒に筆者も「頑張ってください。皆で応援しています。」と声を張り上げた・・・

今回の開催国剥奪、インドネシアの歴史的背景を分かり易く纏めている加藤ひろあき氏のブログを参照にしてみてはいかがでしょうか?

加藤ひろあきオフィシャルブログ